今日の一句 #398

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    鳥は楽しい鉄砲のない日本が  柴田午朗

     

     

    そう、鳥も、人間も。

     

    出典は柴田午朗(1906-2010)の第十句集『僕の川柳』。

    ちょうど100歳を迎えた年に上梓され、

    90代後半の作品が収載されている。

     

     鉄砲をかついだことは忘れない肩

     

    氏は明治39年、島根県生まれ。

    京都大学在学中より川柳を始め、

    番傘川柳本社同人となる。

    昭和16年、応召。従軍。

    終戦後は地元島根の企業で要職を担いつつ

    柳壇の発展にも尽力した。

     

     夕焼けという美しいものがある

     恋をしてすてきになれる春近し

     たのしい川柳苦しい川柳僕の川柳

     小さな行事の一つ僕の死は

     夢ばかり自分は嘘がつけないな

     

    大らかなユーモアとペーソス。

    破調の句にもゆったりとしたリズムが流れ、

    ページを繰るうちに

    呼吸が整ってくるような句集。

     

    氏は「川柳大学」の会員でもいらして

    当方がごく初心の頃から

    その作品や川柳観に触れることができたのは

    ありがたかった。

     

    (『僕の川柳』 柴田午朗/私家版 2006年)

     

    ********************

     

    お知らせです♪

    来る9月7日(土)、伊丹で

    こんなイベントが開催されます。

     

    田辺聖子さん追悼
    ことばの花火大会
     −川柳・俳句・短歌の交響を楽しむ−

     

     

    「川柳がお好きだった田辺聖子先生を偲び、
     柿衞文庫理事長の坪内稔典先生のお声がけで、
     ジャンルを越えて
     詩歌を詠む会を開催します。」
     (主催 伊丹市立図書館 ことば蔵) 

     

    「ことば蔵」の名誉館長でもいらした田辺聖子さん。

    当日はご来場の方全員に、お好きなジャンルで

    1作品詠んでいただくコーナーもあります。

    お題は当日のお楽しみ。
    短歌は尾崎まゆみさん、

    俳句は内橋可奈子さん、わたなべじゅんこさん、
    川柳は木本朱夏さん、芳賀博子が選者を務めます。
    ぜひふるってご参加ください。

     

    日時  9月7日(土) 14:00〜
    会場  伊丹市立図書館 ことば蔵 地下1階 多目的室1

    参加費 無料
    定員  100名(事前申し込み 先着順)
    申込方法 8月16日(金)10時から来館または電話
    主催・お問い合わせ
        伊丹市立図書館 ことば蔵
        〒664-0895 兵庫県伊丹市宮ノ前3丁目7番4号
        TEL (072)784-8170 (交流事業担当)
        ※月曜日休館
        詳細はこちら


    今日の一句 #397

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      土偶のおっぱいきよらかに星の夢  滋野さち

       

       

      本日は立秋。

      とはいえまだまだ酷暑が続きますが

      ‥‥なんて定番のご挨拶はさておいて

      しばし夢をみませんか。

      縄文のヴィーナスや星たちとともに。

       

      「きよらかに」は

      そのボリュームたっぷりのおっぱいにも

      星にも夢にもかかっているよう。

       

      太古より受け継いでいるいのちは

      きっと宇宙ともつながっていて。

       

      本作は青森の川柳グループ「川柳カモミール」の

      会誌第3号に掲載されている1句。

      本誌は笹田かなえさんを発行人として年1回発行され

      最新号も会員作品をはじめ、鑑賞や吟行レポートに、

      突っ込んだ合評記録、寄稿など読み応えたっぷり。

      ページからあふれる情熱は、縄文DNA由来かも。

       

       マヨネーズの逆立ち もうちょっと生きる   三浦潤子

       スグリほろほろ散骨を頼まれる        守田啓子

       きっとまた生まれる鳥が来て去って      細川 静

       スサノヲのミコト重機のアーム 夏      笹田かなえ

       

       

      (「川柳カモミール」第3号/2019年7月)


      今日の一句 #396

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        歎異抄読んできたのか亀の顔  竹原春江

         

         

        アハハ。

        どんな顔だろ。

        悟り?

        諦念?

        うす笑い?

         

        と亀もさることながら

        そんな亀に見入っている主人公の表情も

        あれこれ想像されて可笑しい。

         

        ところで今日。

        近所の子にいきなり呼びとめられた。

        小学2年の女の子。

        とあるレジャー施設から帰ってきたところだという。

        「あのね、いきものさわれるコーナーがあった!」

        いきもの? へえ、なにさわった?

        「かめ!」

        それだけ言うと、ダッともう一目散。

        ああ、夏休みよ!

         

         

        (「川柳びわこ」第674号/2019年8月)


        今日の一句 #395

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          カルピスの希釈が違うまま暮らす  小原由佳

           

           

          夫婦の句と読む。

          それなりの歳月を連れ添った二人の、

          たかが、されどの決定的な不一致を

          カルピスの希釈率で表現した巧さ。

           

          ともあれ、互いに互いを寛容し

          「違うまま」暮らすのが

          長続きの秘訣なんだろう。

           

          まあウチもとうにその境地かも。。

           

          本作は、「現代川柳」最新号より引く。

          今年の6月、吉備路文学館で開催された

          「現代川柳」大会の雑詠入選句。

           

          (「現代川柳」第68号/2019年7月)


          今日の一句 #394

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            投函すドミノは倒れはじめたり  峯 裕見子

             

             

            毎月23日は、ふみの日。

            「2(ふ)と3(み)にちなんで、お手紙を書くきっかけの日です。」

            と日本郵便が推奨。

            ことに文月(ふみづき)である今月の23日にむけては、

            ふみの日にちなんだ切手も発売されている。

             

            といっても世はすっかりメールやらSNSの時代。

            もう年賀状以外、ハガキや手紙なんて何年も書いてない、

            っていう友人が周囲にもけっこういるけれど。

             

            でも掲句のようなスリルは

            アナログならではのものかと思う。

            ポストの口の真っ暗がりへ

            大切なふみ(もちろん手書き)を落とす瞬間は

            まさにドミノ倒しのスタートのごとし。

            カタカタカタカタ・・・

            このうっとりと息詰まる時間。

            さて、ふみは、望みどおりに

            取り返しのつかない事態へ到達するだろうか。

             

             

            (「時実新子の月刊川柳大学」92号/2003年8月)


            今日の一句 #393

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              唯者でない眼光をすぐに消し  古谷恭一 

               

               

              一瞬の眼光で「こやつ唯者ではないな」、

              と見抜いた主人公もまた

              唯者ではないのだろう。

              さて二人とも一体何者?

               

              ピカレスクの香をふっと漂わせる本作は

              「新思潮」最新号より引いた。

               

               ふり向いて想定外の貌をする  恭一

               一輪の薔薇萎み出す机上論

               

              同号に掲載された古谷氏の随筆「往時茫々」がまた興味深い。

              昭和23年生まれの氏がまだ20代半ばで

              「川柳にはど素人の青二才」であった頃の回顧録。

              当時出会った小田二十貫について触れ

              「〜名作家・小田二十貫に一度でも会ったことを誇りにして

               手元の昭和五十年代の『川柳研究』誌から、氏の作品を

               少し抄出してみる。あの頃の熱気が伝わってくるようである。」

              と29句を抄出する。

              その熱気ひしひしの作品から、

              いくつか転載させていただく。

               

               戦艦につねに聞かせる子守唄    小田二十貫

               花火追う息絶え絶えにわれこそは

               敗走の又敗走にハミングも

               腹心の真只中で影を売る

               洞穴に人声ありてお前もか

               

              (「現代川柳 新思潮』No.157 2019年7月)


              今日の一句 #392

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                書く意地も書かない意地も持っている  北川弘子  

                 

                 

                なにを書くか。

                なには書かないか。

                そこはもう自分とのたたかい。

                 

                作者の故北川弘子さんは「時実新子の川柳大学」創立会員。

                たたかい続けることにひるまずブレなかった

                先輩の『明暗』は、折にふれ読み返したくなる句集。

                 

                 職に戻れば人が斃れる音がする

                 一日の愚かな足を揉んでいる

                 大きな拍手小さな拍手から起きる

                   まっすぐにわたしの胸に来たイルカ

                 

                 

                (川柳集『明暗』 北川弘子/編集工房 円 1998年)

                 


                今日の一句 #391

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                  ずぶぬれて犬ころ   住宅顕信

                   

                   

                  今回は川柳ではなく、自由律俳句。

                  「夭折の俳人」住宅顕信(1961-1987)の代表句だ。

                   

                  掲句と出会ったのは、十数年前の住宅顕信ブームの頃。

                  まさに一瞬で刺さるインパクトがあり

                  確かに、せつなくて淋しい句なんだけれど、

                  なんというか

                  字面も、口ずさんだときのリズムも

                  どこか丸っこくて人懐こい。

                  顕信の句の中ではやっぱりこの句が

                  一等印象深く、いいなあと思う。

                   

                  さてこの6月より、本作をタイトルにした

                  映画「ずぶぬれて犬ころ」が公開されている。

                  https://zubuinu.com/

                   

                  また、顕信の地元岡山の吉備路文学館では

                  ただいま上映記念企画展を開催中。

                  前回ご紹介した「生誕90年 時実新子展」と同時開催で

                  両展の共通テーマは「ことばの力」。

                  http://www.kibiji.or.jp/

                   

                  先日、吉備路文学館を訪れた。

                  初めてみる住宅顕信のナマ資料、

                  これがとっても面白かった。

                  肉筆から感じられる「ことばの力」、

                  生き生きと新たに。

                   

                    若さとはこんな淋しい春なのか

                    気の抜けたサイダーが僕の人生

                   


                  今日の一句 #390

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                    放たれて男の背中幅を持つ   時実新子

                     

                     

                    男を放つ。

                    さあ、もうどこへでも好きなところへ行きなさい、と。

                    ためらいながら歩きだした男の背。

                    遠ざかりながら確かな幅を持つその背に

                    思わず吐息がこぼれる。

                    ああ、君は何より自由を愛する人であったと。

                     

                    掲句は、新刊ほやほやの

                    時実新子アンソロジー『愛は愛は愛は』より引く。

                    1987年に刊行した句集『有夫恋』が異例のベストセラーとなり

                    その鮮烈な十七音で「川柳界の与謝野晶子」とも称された時実新子(1929-2007)。

                    作品はジャンルを超えて、今も多くのファンの心を掴み続け、

                    今年生誕90年を迎える。

                    「この記念すべき年に、新子の魂を受け継ぐ「現代川柳」編集部の手によって編み直された、

                     川柳アンソロジー決定版。全集未収録句・未発表句を含む珠玉の352句を収録。」

                    (ニュースリリースより)

                     

                    編年でない新構成で

                    代表作も含め、一句一句が新たな輝きをもって胸に迫る。

                     

                     体内にオリオン誕まれたるを秘す

                     花火の群れの幾人が死を考える

                     ラムネ玉一つに心まるうつし

                     愛そうとしたのよずっとずっとずっと

                     命より少うし長く銅鑼は鳴る

                     

                    (『愛は愛は愛は』「現代川柳」編集部編/左右社 2019年)

                     

                    さて、ただいま岡山の吉備路文学館では

                    特別展「“ことばの力”生誕90年 時実新子展」を開催中。

                    http://www.kibiji.or.jp/

                    8月3日には「時実新子の言葉たち」と題し

                    芳賀も講演させていただきます。

                    わが師・時実新子の言葉の深遠へ

                    みなさまとともにぐぐっと迫るひととき。

                    ぜひお運びください(要予約)。 


                    今日の一句 #389

                    0

                       

                      差向ひ又金の要る話なり   岸本水府

                       

                       

                       「これもしようがないですね、ほんとに。

                       <金の要る話をするために夫婦はあるようなもんやから。> 

                       一人やったら、使うことあらへんやないか、まあ、

                       子供もいれば余計だけども。

                        この句は、浮世のそういうふうな空気というものが

                       ちゃんと出ていて……。美しい川柳とか、感動的な川柳とか

                       あるけれども、庶民の何でもない普通の生活、

                       こういうのを詠むのも川柳の仕事だと思いますよ。

                       人生の妙味、というのでしょうか」

                       

                      と、田辺聖子さんの鑑賞もまたユーモアふっくら、滋味たっぷり。

                      出典は『田辺聖子の人生あまから川柳』(集英社新書 2008年)で

                      自身の選による「川柳珠玉の百句」が一挙掲載されている。

                       

                      さてもこのたびの田辺聖子さんの訃報。

                      まさに巨星墜つ。

                       

                      言わずもがなながら

                      詩歌のスーパーサポーターでもあり

                      ついに、とうとう‥‥の喪失感で、

                      手もとの本書を久しぶりにぱらりと開いたら

                      これがほんとに面白くてページがとまらなくなってしまった。

                      他にもこんな句が紹介されている。

                       

                       このご恩は忘れませんと寄りつかず  大田佳凡 

                       あらかたは社長が笑ふ社長室     川上三太郎

                       いじめ甲斐ある人を待つ胡瓜もみ   田頭良子

                       鮎にあき郊外にあき雨にあき     食満南北

                       叱られて寝る子が閉めてゆく襖    木下愛日

                       

                      帯には、笑顔の写真とともに

                      「佳きかな、川柳。

                       覚えておいて人生の中で

                       ハンカチみたいになんぼでも使ってほしい」


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