今日の一句 #445

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    いつの間にマスクが好きになりました  上田優子

     

     

    どの川柳誌にも

    実にまあいろんなマスクの句があふれる中で

    ん、と立ち止まった本作。

     

    マスク着用にもしぶしぶ慣れる、を通りこして

    ついには「好きになりました」。

    このポジティブさに主人公のキャラクターが伺える。

     

    実際、マスクもお洒落の一部だと考えて

    洋服とのコーディネートを楽しんだり、

    逆に、マスクのおかげでメークをさぼれてラク

    という友人もいる。

     

    もちろん、マスクなんて着用不要の世に

    はやく落ち着いてもらうのを心底願いつつ。

     

     

    (「川柳びわこ」2020年7月号 びわこ番傘川柳会)


    今日の一句 #444

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      ここからは流れ解散だな友よ   碾鸛石

       

       

      シビれるなあ。

      泣けるなあ。

      ひとしきり酔いしれた宴に

      人生そのものが重なる。

       

      ひとり、またひとりと去ってゆくなかで

      残った悪友と酌み交わすひととき。

      お互いにまだまだ酔い足りぬこの世だ。

       

      「ここからは」の上五が、さりげなく深い。

       

       

      (「青森縣川柳年鑑 ねぶた 2020年(第1集)」

       /2020年 青森県川柳連盟)


      今日の一句 #443

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        咲くときは少しチクッとしますから  広瀬ちえみ

         

         

        言葉の洒落っ気に茶目っ気がさく裂。

        もう一瞬で覚えてしまった句を

        これからも折にふれ思い返しては

        ニタッとうれしくなったり、

        シクッとせつなくなったりするのだろう。

         

        本作は広瀬ちえみさんの新刊句集『雨曜日』から引く。

        作者ならではのユーモアと口誦性、批判精神が

        新しいステージで展開している。

         

         かんぶにもこんぶにもよくいいきかす

         そのみちもどのみち雪になりますの

         オクラクノコイツイラクノコイ

         

        かと思うと

         

         笑ってもよろしいですか沼ですが

         死んでからゆっくりやろうと思うこと

         このつぎの満月までに縫う袋

         

        かと思うと

         

         国をあげ斜めに突入いたします

         この国の玉葱切って泣いている

         

        ちえみワールドは

        楽しみ方、思いっきり自由。

        年間パスポートのかわりに

        この句集を手に取りさえすれば

        いつでもどこでもこの世界に飛べる。

         

         

        (句集『雨曜日』 広瀬ちえみ/2020年 文學の森)


        今日の一句 #442

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          派手を着よとて娘から父の日に   石原伯峯

           

           

          父が詠んだ父の日の句。

          日記のように、さらりとてらいなく書かれている。

          けれど日記ではなく、川柳で書かれたがゆえに

          父の喜びや含羞が

          ほのぼのしみじみと伝わってくる。

           

          作者は広島県川柳協会初代会長など、

          柳壇の要職を歴任した故・石原伯峯氏(1920-2002)。

           

          今春、氏の作品や功績をたどる

          『石原伯峯の川柳と柳縁』が

          新葉館出版の新書シリーズの1冊として刊行された。

          監修は門下の弘兼秀子さん。

           

           花鋏花のいのちに触れた音

           腕組の中に小さな秋が棲む

           野良犬は風の噂にたじろがず

           長女とや菊一輪にたとえんか

           

          「柳縁無限」という言葉を愛した石原氏。

           

          ちなみにご長女は川柳作家の弘津秋の子さんで

          本書には弘津さんの「娘」ならではの視点で書かれた

          興味深いエッセーも収載されています。

           

           

          (『石原伯峯の川柳と柳縁』弘兼秀子 監修

              /新葉館出版 2020年3月)


          今日の一句 #441

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            金曜はチコちゃんと飲むひとり酒   津田 暹

             

             

            「触光」最新号の誌上句会コーナーで拝見した味のある一句。

            お題は「金曜日」で、選者は東川和子さん。

             

            大の男が5歳の女の子に叱られながら

            ひとり手酌で飲んでいる。

            とまあ、句意平明にして

            このユーモアとペーソスの奥行にうなる。

             

            「題はあくまで呼び水。

             ちゃんと自分に引きつけて詠むこと」

            生前、師・時実新子の繰り返し説いていたことが

            つと師の声でよみがえる。

             

            さて「触光」本号では

            「第10回 高田寄生木賞」が発表され、

            受賞作は加藤当百さんの「言行録からの川柳考」。

             

            選考した主宰・野沢省悟さんのコメントです。

            「今回寄生木賞を受賞された加藤当百氏は

             42歳という若さ、この賞を機会に 

             川柳評論に取り組んでいただければと

             大いに期待している。」

             

             

            (「触光」66号/川柳触光舎 2020年6月)


            今日の一句 #440

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              お茶の間のテレビ爆発して静か   坂東乃理子

               

               

              「お茶の間」とは懐かしい響き。

              なにやらサザエさん的風景の中で

              いきなりとんでもないことが起きる。

               

              テレビ爆発。

              とは、さすがのテレビも耐えかねるような

              ニュースが続いたからか。

              いや、ちょっとした故障が

              漫画チックに表現されたユーモアの句かもしれないけれど。

               

              ところで、さっきうちのテレビも爆発した。

              原因はなんだ。

               

               

              (坂東乃理子川柳集『人魚の絵』/私家版 2018年)


              今日の一句 #439

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                お返事がないのも返事花鋏   若林よしえ

                 

                 

                チョキン。

                と、未練を断った花鋏の切れ味も

                句の切れ味も鋭い。

                にもかかわらず、後を引くのはなぜだろう。

                 

                若林よしえさんの句集『明日』は

                もう何度も読み返しているのに

                いまだ、あっ、うっ、ひっ、と

                驚かされっぱなしなのが悔しい、うれしい。

                 

                 滝壺で静かに暮らす病み上がり

                 ポットの湯あんたも冷めておしまいよ

                 振袖のように残っていた水着

                 トンカツの衣ですがと自己主張 

                 人だけが死ぬの生きるの洗濯機

                 

                 

                (句集『明日』 若林よしえ

                 /かもめ舎川柳新書 左右社 2015年)

                 


                今日の一句 #438

                0

                   

                  道問へば一度に動く田植え笠  (古川柳)

                   

                   

                  『誹風柳多留』初篇(明和2年/1765年)の中の1句。

                  DNAに刷り込まれた原風景というか、

                  実際にこんな光景を目にしたことはないのに

                  なんとも懐かしく生き生きとよみがえってくる。

                   

                  ところで手元の『古川柳 ー鑑賞から研究へー』

                  (丸十府 著/愛育出版 1968年)は

                  古川柳研究の某氏が初学の頃より愛読されていた古川柳の手引書。

                  ふとしたご縁でひょいと譲ってくださって以来、

                  わたしも折にふれ楽しくめくっていて

                  本書には掲句と一緒に、柳多留のこんな2句も紹介されている。

                  どちらもなかなか味があって

                  著者の丸十府氏の鑑賞とともにどうぞ。

                   

                   早乙女の笠ひぼ岡へ持つてくる (六篇)

                    田植え最中、笠のひもがゆるんできた。

                    泥の手で、しめ直すこともできない。

                    あぜにいる人に、「しめ直して……」

                    とやってくる。

                   

                   早乙女は他領の方へ草を投げ (三篇)

                    田植えの邪魔になった雑草を、

                    ぽんとよその田へ投げてやる。

                    「他領」の大げさな表現。

                   


                  今日の一句 #437

                  0

                     

                    神様の遊び 苺のツブツブは   石井陶子

                     

                     

                    この句を思い浮かべながら、

                    今日苺を食べた。

                     

                    神様の遊び=苺のツブツブ。

                    この思いがけなさに詩がある。

                     

                    ツブツブをつぷつぷと噛みしめて

                    これも遊びなのかあ、

                    遊びとはなあ、

                    と、愉快なようなせつないような。

                     


                    (川柳アンソロジー『月の子』 月の子会 2013年)


                    今日の一句 #436

                    0

                       

                      シンバルを持って岬にひとりゆく  木口雅裕

                       

                       

                      今、私もとってもこんな気分だ。

                      岬の先端で、水平線を見つめながら

                      シンバルを力任せに打てたら、どれほどスカッとするだろう。

                      その後、いっそう寂しくなったとしても。

                       

                      本作は『若葉の句集 此戮茲螳く。

                      こちらは京都を拠点とする川柳グループ「川柳若葉の会」の

                      15周年を記念した、会6冊目のアンソロジー。

                      表紙のイラストがとってもキュートで

                      1本の大きな樹には葉が茂り、小鳥たちが楽しげに歌っている。

                      いいなあ、と表紙をめくり、

                      いいなあ、いいなあ、とページをめくる。

                      「すっかり川柳マジックに魅せられた」若葉メンバー21名の

                      川柳愛に満ちた1冊。

                       

                       ハンサムなライン欲しくて夜のジム   越智ひろ子

                       瓢箪ぶらぶら小さなことは教わらず   坂根寛哉

                       液晶の海へ沈んでゆく魚影       西田雅子

                       笑いに笑って往生いたします      野村笑吾

                       ポケットの奥に溜まってゆく端数    目加田邦子

                       火を囲む両手に少し滾るもの      和田洋子

                       

                       

                      (アンソロジー『若葉の句集 此15周年記念』

                          /川柳若葉の会 2020年) 


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