今日の一句 #455

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    水族館の硝子に映る恋人よ   標尭刺廖

     

     

    川柳に季語の約束ごとはない。

    だから掲句には

    どの季節を思い描いてもいいし、

    どの季節にも合う句だけれど、

    秋、いいな。

     

    たとえばジンベイザメの遊泳する大水槽。

    その水も、気持ちひんやりと涼しげで

    硝子に映る恋人は、

    笑ってサメを目で追っている。

    隣りに立って、同じようにサメを目で追うふりで

    でも硝子の笑顔ばかり見つめている主人公。

    とても素敵な秋のひと日だ。

     

    ガラスではなく硝子、の表記に趣があり、

    恋人への誠実な思いが

    こういうところにも感じられる。

     

     

    (『三省堂 新現代川柳必携』田口麦彦編/三省堂 2014年)


    今日の一句 #454

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      カタカナで書いてあるので飛ばし読み   谷口 義

       

       

      時事と重ねて

      小池百合子都知事の顔など浮かぶ。

       

      新型コロナウイルスによって

      クラスターやリモートワーク、〇〇アラートなど、

      目新しいカタカナ語が一気に世にあふれたけれど

      それぞれひとつひとつ、

      いのちや暮らしに直結していることばたち。

       

      なのでそうそう飛ばし読みもできないのは承知の上での

      シニカルな一句とも読める。

      主人公の開き直りが可笑しい。

       

      いやしかし、最近はカタカナに置き換えず

      アルファベットそのままの語もどんどん増えてきている気がする。

      すでにすっかり定着したWi-FiやPay、zoomにSDGsなどなど。

       

       

      (「触光」67号/触光川柳舎 2020年9月)

       


      今日の一句 #453

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        息を吐く息を大きく吸うために   平尾正人

         

         

        シンプルな1句ながら

        説得力をもって、深呼吸を促された気分。

        はい、まずは息を吐くことですね。

        肩の力を抜いて、

        身のうちのもやもやも、やれやれも、

        ため息にして吐き出す。吐き切る。

        すると大きく吸うことができる。

         

        というのを繰り返してみると

        やっぱり、フツーに気持ちが落ち着いて、

        当たり前過ぎることだけれど

        呼吸は生きることの基本なんだなと。

         

        本作は新葉館出版の新しいアンソロジーシリーズ

        『精鋭作家川柳選集 中国・四国・九州編』より引く。

        ちなみに作者は鳥取県在住のドクターで、

        朝日新聞とっとり柳壇の選者。

         

         

        (『精鋭作家川柳選集 中国・四国・九州編』 新葉館出版 2020年)


        今日の一句 #452

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          画集から道をひっぱりだしておく   加藤久子

           

           

          たとえば、と想像の画集を開く。

          画集にはいろんな道が描かれている。

          ひまわりの道、星降る道、けもの道、

          あるいは異国のハイウェイとか。

           

          そのなかから

          どんな道がひっぱりだされるのだろう。

          なんのために?

          「ひっぱりだしておく」というのも

          なかなかに意味深。

           

          さて本作はそれ自体が一枚の絵のよう。

          たっぷりとられた余白に読者が自由に想像力の筆を入れ

          絵を完成させていく。

          その過程をぞくりと楽しみながら。

           

           

          (句集『空の傷』 加藤久子/『現代川柳「隗」』1999年)


          今日の一句 #451

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            深海をさまよう両手上げたまま   山崎夫美子

             

             

            俳人の坪内稔典氏が、

            ご自身のブログ『坪内稔典の「窓と窓」』で

            先週8月14日から、数日にわたって

            「最新の川柳」を紹介されている。

            https://ameblo.jp/sakadachikaba/

             

            個性も所属も違う川柳人6名の近詠5句を

            俳人・坪内稔典が読む、「窓と窓」川柳編。

             

            実はとあるきっかけでこの6名、

            私が「今、作品が読みたい人」として

            お名前を挙げさせていただいた方でもある。

             

            阿川マサコ、小林康浩、重森恒雄、

            西田雅子、濱山哲也、山崎夫美子。

             

            坪内氏の持論でもある

            「俳句は多義、川柳は一義」を軸とした

            それぞれへの作品評がとても興味深い。

             

            さて掲句は、その「窓と窓」に寄稿された

            山崎夫美子さんの近詠の1句。

            一読、深海に引き込まれ、酸欠になりながらも

            次第にカタルシスが感じられる不思議な作品だ。

             

            そして坪内氏の山崎夫美子句鑑賞はこちらです。

            https://ameblo.jp/sakadachikaba/entry-12618461771.html

             

            ちなみに拙句も番外編で登場。曰く

            「川柳を作る多くの人は一義の面白さを楽しんでいるだろう。

            そんななかで、芳賀さんのような人はときどき一義に反抗している。

            あるいは、源川柳に戻ろうとする。」

            https://ameblo.jp/sakadachikaba/entry-12618571424.html

             

            はてさて「源川柳」とは。

            しかし山崎作品にも通ずるワードかも。

            その「源」について、これからもっと考えてみたい。


            今日の一句 #450

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              〇か×の間のぼくを見てほしい   浅野 忍

               

               

              ああ、それは私の気持ちでもあるなあ。

              と、頷きながら、はて

              私はだれに「見てほしい」のだろう。

               

               大きなトマトぴかぴかの香りする    今井和子

               弟が荷物半分持つと言う        石井道子

               ストローをぐーんと伸ばし青空を    竹原春江

               たくさんのいらないものを持ちながら  安い茂樹

               笑ってもいいし泣いたりしてもいい   永政二

               ムヒをぬるキンカンをぬるまだ痒い   笠川嘉一

               

              「川柳びわこ」最新号から引く。

              酷暑が続く日々、

              なんだかほっと、ふーっと、息がラクになるような川柳であります。

               

               

              (「川柳びわこ」2020年8月号 びわこ番傘川柳会


              今日の一句 #449

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                レジ袋消えて優しくなってゆく  水品団石

                 

                 

                出雲の「よつがね・はばたき川柳会」主催の誌上大会

                「150号記念川柳大会」の会報が届く。

                全国各地から参加者264名。

                誌上大会はどこも活況のようだ。

                 

                さて、掲句は赤松ますみさん選「豊か」の入選句で

                とてもタイムリー。

                 

                「優しくなってゆく」の優しいは

                地球に優しい、でもあるだろうし

                「なんか人間も優しくなっていくんじゃないかな」、

                みたいな漠然とした願いでもあるかも。

                 

                そんな「優しい」は確かに「豊か」につながっている。

                 

                 

                「よつがね・はばたき川柳会 150号記念川柳大会」2020年7月)

                 


                今日の一句 #448

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                  生活をかけて大地に種を蒔く  香田龍馬

                   

                   

                  これもまたコロナ禍より生まれた1句か。

                  切実でありながらも、大地の匂いにほっとする。

                  「種を蒔く」には、シンプルに希望がある。

                   

                  自粛期間中、友人は庭に小さな畑を作ったという。

                  私も、折にふれベランダに出ては

                  プランターの花を見つめ、土に触れていた。

                  それが習性になって今も続いている。

                   

                  なにか新しい種を蒔こうと思う。

                  こんなときこそ。

                   

                   

                  (「川柳林檎」No.568 2020年7月 弘前川柳社)


                  今日の一句 #447

                  0

                     

                    本屋から出るとギラギラした祭り  金築雨学

                     

                     

                    行きつけの本屋。

                    その静けさ、涼しさから一歩出ると

                    いきなりギラギラのただ中だ。

                     

                    「祭り」は祭りであるし、

                    まるで祭りのごとき、

                    ギラギラした時代や社会の喧噪とも読める。

                     

                    そんな祭りに、

                    そしてそんな祭りにどこか冷めている自身にも

                    シニカルな視線が向けられている。

                     

                     一票を私に入れる他はない

                     包丁の雫を切ってから話す

                     月の光で風邪薬飲んでいる

                     何故だとは言い返せない谷がある

                     タンポポのいっぱい咲いている夫婦

                     

                    金築雨学さんがこの7月20日に逝去された。

                    享年79。

                    雨学さんの句集をひらくと

                    ユーモアや批判精神があり、詩があり、

                    いつも、ああ川柳だなあ、と感じ入る。

                     

                    ある雑誌の連載で、3年前に取材させていただいことがあった。

                    手紙や電話でのお言葉もずんと胸深く落ちてくるよう。

                    その後、雨学さんの地元である出雲の川柳大会でお目にかかる機会も得て、

                    やわらかい笑顔で、興味深いお話をいろいろ聞かせていただいた。

                    その続きをいつかまた伺いたかった。

                    合掌。

                     

                     

                    (川柳作家全集『金築雨学』 /新葉館出版 2009)


                    今日の一句 #446

                    0

                       

                      いまあなたこどものふりをしてますね  妹尾 凛

                       

                       

                      ふと。

                      「あなた」はおとなではなく、もしかしたら

                      ほんとうにまだほんのこどもかもしれないなと思った。

                       

                      なにも知らない、なにも気付いていない

                      無邪気な「こども」のふりをしているこども。

                      けれど、ほんとうはすべてわかっていて、

                      なにかを抱えていて、

                      そして誰かに、こんな風に

                      声をかけられるのをずっと待っていたのかも。

                       

                      本作は新刊の妹尾凛句集『Ring』より引く。

                       

                       曲線のかたまり鳥のものがたり

                       まぶたにも邪馬台国の豆の花

                       雨の日はどこにもいない人に会う

                       流れ星やっとバンジョーかきならす

                       

                      タイトルの「Ring」は

                      著者名に由来するのだろうが、

                      訳すとすれば

                      輪であり、螺旋であり、響きであり、

                      そして。

                       

                       

                      (句集『Ring』 妹尾 凛 /水仁舎 2020)


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