今日の一句 #363

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    山頂に風あり人を信じます   高田寄生木

     

     

    先月3日、青森の高田寄生木さんが逝去された。

    享年85歳。

    進取の気象に富み、

    広く川柳の振興に務め続けてこられた寄生木さんの訃報は

    川柳界にさまざまな喪失感をもたらしている。

     

    柳誌「触光」の最新号でも巻頭で一報を伝えている。

    触光を主宰する野沢省悟さんは

    寄生木さんに薫陶を受け、亡くなられるまで

    最も身近で川柳活動をともにしていたお一人だ。

    同誌に11月4日付の東奥日報の訃報記事が転載されていたので

    一部抜粋する。高田寄生木さんは、

     

     1933年生まれ。60年に川柳を始め、

     戦後の県柳壇のけん引役として活躍した故杉野草兵さんの

     指導を受けた。

     65年、川内川柳社の句会報を創刊し、

     71年に「かもしか」へと改題、編集人を務めた。

     「かもしか」は詩性をにじませた革新的な句風で

     県内外から投句者を集める全国誌となり、

     現代川柳の活性化に大きな足跡を残した。

     83年、「かもしか」の企画として、

     杉野さんとともに「川柳界の芥川賞」を標榜した

     全国公募の「川柳Z賞」を創設。

     現在の柳壇を支える作家たちを育てた。 

     2002年の「かもしか」終刊後は

     「北貌」を編集・発行した。

     

    触光ではただいま「第9回 高田寄生木賞」を募集中だ。

    同賞は川柳に関する論文やエッセイを対象とする。

     

    さてそして今日の一句は、

    寄生木さんの第一句集『父の旗』の巻頭句。

     

    残念ながら生前お目にかかることかなわなかったが

    句集や触光で折にふれ作品を読んできて

    私の中の「高田寄生木」像は

    この一句にふわりと重なる。


    (句集『父の旗』高田寄生木/1975年 かもしか川柳社)


    今日の一句 #362

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      さいころの6がでるまで金曜日  樋口由紀子

       

       

      さ、次はキミの番だよ。

      と、さいころを渡されたら

      どんな気持ちになるだろう。

      どうぞ今度こそ6がでますように?

      それとも、6だけはでませんように?

      どちらであっても

      すっごくドキドキするに違いない。

      そしてそのうちふと思う。

      なんでこんなゲームに参加してしまったんだろうと。

       

      今日の一句は樋口由紀子の最新句集『めるくまーる』より引く。

      句集『ゆうるりと』『容顔』に続く

      19年ぶりの第3句集という。

       

      ページを繰るたび

      のっぴきならないシチュエーションが

      次々にふりかかってくる感覚を楽しむ。

       

       婚約者と会わねばならぬ大津駅

       靴下をはかない方が実の父

       雲海に兎と亀が入ってゆく

       鏡台を動かし水を確かめる

       


      (句集『めるくまーる』樋口由紀子/2018年 ふらんす堂)


      今日の一句 #361

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        そうでしょうそんなもんだよ卒寿だよ  玉井たけし

         

         

        「そうでしょうそんなもんだよ」

        ですか。

        いろいろ含みある台詞ながら

        なんかかっこいいなあ。

        老いを嘆くでも悟るでもない

        ひょうひょうとした詠みっぷり。

        卒寿にしてこの現役感が

        今どきだなあと思う。

         

        ほんと人生100年時代がリアルに実感される昨今だ。

        川柳大会へ出向くと

        アラ卒!?の大先輩諸氏のご健吟ぶりにうなる。

        酒の句、恋の句、

        軽やかに、大らかに。

         


        (「柳都」839号/2018年11月 柳都川柳社)

         


        今日の一句 #360

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          かりそめの足を崩している人魚  伊藤聖子

           

           

          足のやり場にとまどう人魚の所作。

          初々しくてなまめかしくて、

          まだぴちぴちっと水しぶきがあがりそう。

          そして、この人魚の恋も本気のよう。

          かりそめの足は、

          きっとやっぱり大切な何かと引き換えに得たもの。

          恋のゆくえをキュンと見守ろう。

           

          さて本作は先月発行された

          「現代川柳かもめ舎アンソロジー

            WAVE 2009-2018」から引いた。

           

          川瀬晶子さんが主宰する「現代川柳かもめ舎」の

          発足10年を記念したアンソロジーで

          「人間の心、自分自身の心を詠う文芸としての川柳を

           楽しむ人たち」61人の個性が結集している。

           

           ゆっくりと曲がる ゆっくり自己嫌悪  一家 汀

           アワダチソウの駅で最後に見たらしい  大西俊和

           焼きリンゴ友の情事が匂い立つ     金子喜代

           ざっくりと月を削って君は去る     川瀬晶子

           昼下がり五百羅漢も髭を抜く      杉山昌善

           すずめすずめ信じ切ってはいけないよ  野原 萌

           


          (現代川柳かもめ舎アンソロジー『WAVE 2009-2018』

           /2018年 メルリンクス)


          今日の一句 #359

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            馬の背にゆらり今夜は鍋がいい  秀川 純

             

             

            流行語大賞のノミネートに続き

            紅白の出場歌手も発表されて

            年の瀬モードが一気に加速しました。

            昨日は「北海道でようやく初雪」のニュース。

            ここ関西もぐっと冷え込み

            慌てて厚手のセーターを引っ張りだしています。

             

            いろんなものから、やにわに追い立てられるようで

            頭の中が、わらわらわーっ・・

            と、その隙間から

            ぽっと吹き出しみたいに浮かんできたのが

            今日の一句。

            口ずさめばじんわりあったか、

            なんだかほっと落ち着いて。

             

            馬の背の主さん、

            今日もお勤めお疲れさまです。

            以心伝心、今夜は鍋のようですよ。

            ウチも週末は鍋にきまり。

             


            (川柳句集『へうげもの』秀川 純/2015年 左右社)


            今日の一句 #358

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              体内の芒が揺れるバーの椅子  岡田俊介

               

               

              体内の芒が揺れる。

               

              なんという詩的映像。

               

              やがてカメラが引くと

              ひとり飲む男の背中になり

              再びうわっ・・

              っとシビれて、

              以来何年もシビれっぱなしだ。

               

              芒にも、バーの椅子にも

              それぞれの時間があり、物語がある。

              まるで一篇の小説のよう、

              というより世界一短い小説か。

              そんな風にも味わいながら

              秋の夜長、

              句集『青誕樹』を読み返している。

               

               この坂にいま人あらば戀に落ちむ

               旅人に一本の樹は黄泉の国

               黒猫は水がこいしい水甕座

               一斉に眠りに落ちる沖の船

               夜桜の遠き一撃とどめいて

               

               

              (句集『青誕樹』岡田俊介/2012年 近代文藝社)


              今日の一句 #357

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                美しい敵と静かな酒になる  森中惠美子

                 

                 

                恋の宿敵。

                氷りつくほどの美貌の持ち主。

                そして主人公もまた。

                 

                そんな二人が

                どちらも一歩も引かず、

                くいっ、ぐいっと

                静かに酒をあおり続けている。

                将棋の名人戦もかくやの緊迫感だ。

                しかしこの酒のなんととろりとうまそうなこと。

                 

                掲句、森中惠美子の最新句集『ポケットの水たまり』から引いた。

                本書は先月28日に大阪で開催された

                「番傘川柳本社創立110年記念 全国川柳大会」の

                記念の品のひとつでもある。

                タイトルにちなんでか、文庫サイズで

                今年米寿を迎えた森中惠美子の世界が

                軽やかに楽しめる一冊だ。

                 

                 桜咲く国に生かされてるひとり

                 茶の香り男も香り出す五月

                 昭和ヒト桁生まれのスキップだよ

                 ブランコで戦争のない空を蹴る

                 樹木希林のにぎりこぶしをみましたか

                 

                 

                (川柳句集『ポケットの水たまり』森中惠美子/2018年)


                今日の一句 #356

                0

                   

                  オロナイン軟膏おろおろと生きる  加藤久子

                   

                   

                  一家にひとつオロナイン軟膏。

                  ひび、あかぎれや傷、にきびにも効くという

                  家庭のお手軽「万能薬」が

                  うちにもある。

                   

                  なにかあれば、おろおろしながら

                  とりあえずオロナインをひと塗り、ふた塗り。

                  こうして日々の小難をやり過ごすうち

                  人生は過ぎてゆく。

                   

                  オロナイン、おろおろの語呂合わせが

                  くすっとおかしく、

                  くすっとせつない。

                   

                  けれど、ふっと吐息つくような一句に

                  なんでもない暮らしのありがたさもにじんで。

                   

                   

                  (「川柳杜人」2018年秋号/川柳杜人社)


                  今日の一句 #355

                  0

                     

                    もうなんど紙ヒコーキを飛ばしたか  ひとり静

                     

                     

                    逢いたい人めがけて

                    逢いたい、逢いたいって。

                     

                    あるいは

                    わたしはここにいるよ、

                    お願い、誰か助けてって。

                     

                    こんな風に

                    今日もあちらこちらの窓から

                    紙ヒコーキが飛ばされている気がする。

                     

                    いくつかはネットの中を飛び交ってもいたり。

                     

                    掲句は句集『ひとり静 海の鳥空の魚とわたくしと』

                    より引く。

                     

                      消しても消してもうっすらと補助線

                      手を伸ばしみどりの人に触れてみる

                      羊羹のひとりに深き夜の色

                     

                     

                    (川柳作家ベストコレクション

                     『ひとり静 海の鳥空の魚とわたくしと』 

                      /新葉館出版 2018年)


                    今日の一句 #354

                    0

                       

                      これまでを思えば奉仕ただ奉仕  中村郁枝

                       

                       

                      感謝の一句。

                      のようで愚痴の一句かも。

                       

                      「これまでを思えば」

                      すなわち、これまでさんざんお世話になったんだから、とか

                      これまでなんとか息災にやってこれたんだから、とか

                      自分に言い聞かせでもしないと

                      やってられない「奉仕」なのかも。

                       

                      とつい、意地悪な読み方をしながら

                      こういうことあるよねー、

                      とニンマリうなずいている。

                       

                       

                      (「川柳びわこ」びわこ番傘川柳会 2018年10月)


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