今日の一句 #372

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    猫踏んじゃったバレンタインのチョコ  大野風太郎

     

     

    ナハハ。

    猫が踏んじゃったかー。

    今年もらった、たったひとつのチョコだったのにね。

    でも猫は確信犯かもよ。

    「こんな義理チョコにやにさがってる場合かよ。

     ちゃんとした恋をしろよ」

    なんてね。

     


    (『三省堂現代川柳必携』田口麦彦編/三省堂)


    今日の一句 #371

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      飛行機は嫌いここから歩きます  松永千秋

       

       

      えーっ!

      ってどれほど驚いたって止めたって無駄でしょう。

      なにをバカなと呆れるのもごもっとも。

      でもね、この主人公は本気ですよ。

      ほんとにここから歩いてくつもり。

      そしてすたすた黙々と

      山越え川越え海もわたって

      ちゃんと行くべきところへ行きそうな気がするんですよ。

       

      同調圧なんて吹っ飛ばす

      きっぱりとした物言いが愉快、痛快。

       


      (「晴」第2号 2019年1月15日発行)


      今日の一句 #370

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        節分の鬼と風花食べ尽くす  山崎夫美子

         

         

        今年の節分は2月3日。

        そして節分といえば、ぽっとこの一句が浮かぶ。

         

        凍える寒さの節分の夜。

        散散ぱら豆をぶつけられ追われきた鬼がいる。

        主人公もいる。

        ここは里のはずれだろうか。

        たまたま出遭った似たものどうし。

        寒さにふるえ、お腹もぺこぺこ。

        なら、いっそこの雪食っちゃうか。

         

        どちらからともなく空にあんぐり口あけて

        風花をぱくぱく、ぱくぱく。

        いつまでもいつまでも、

        あー、ゆかいゆかいと。

         

        一篇のものがたりのような句を口ずさむたび

        きゅっとせつない。

        でも一人ぽっちと一匹ぽっちが出会い、

        ともにいるぬくもりも感じられる句。

         

        夜はしんしんと、明ければもう立春。


        (句集『葉桜の坂』 山崎夫美子/新葉館出版)


        今日の一句 #369

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          やわらかなまっすぐがあるこの街で  望月こりん

           

           

          どこだって住めば都、とはいうけれど。

          でもやっぱり相性というものはあるだろう。

           

          さて主人公が今住む「この街」には

          「やわらかなまっすぐがある」という。

           

          それってなんだ。

          まず「まっすぐ」という言葉には秩序や安心を感じる。

          でも「やわらかな」であるから

          いわゆる杓子定規なものではなく

          寛容的で、さりげなく人情味にもあふれていたりするのかな。

          なんて清清々しく想像が広がる。

           

          街をつつむ今日の青空。

          その空は主人公の胸の内にも晴ればれと広がっているよう。

           


          (川柳アンソロジー『月の子』/月の子会 2013年)


          今日の一句 #368

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            平成十二年一月十七日 光   時実新子

             

             

            本日は阪神淡路震災忌。

            あの日から24年が経つ。

             

             平成七年一月十七日 裂ける   新子    

             

            震災直後、神戸在住の時実新子が詠んだ本作は、

            その瞬間を鮮烈にとどめるものとして

            メディアでも大きな反響を呼んだ。

            以後も新子は1年1年、こんな風に川柳で

            「一月十七日」を表現し続けた。

             

             平成八年一月十七日 生きる

             平成九年一月十七日 微笑

             平成十年一月一月十七日 虚脱

             平成十一年一月十七日 起立  

             

            ところで「時実新子の月刊川大学」の2000年1月号では

            「震災五年を詠む」と題した特集が組まれている。

            震災5年をテーマに広く会員・誌友から作品を募り、新子が選句。

            そして自身は

             

             平成十二年一月十七日 光

             

            と詠んだ。

            特集最後の「選後寸感」の中では

            このような言葉を記している。

             

             私の五年もうねる波だった。

             「がんばれ」コールがつらかった日もある。

             独りに閉じ込もった日もあった。

             しかし今、私は「光」と言い切れる。

             世紀末から新世紀へ跨ぐ年の暗黒のまっただ中だからこそ、

             見える光から目をそらさないで、

             みなさんといっしょに生かしていただくありがたさを思う。

             

            2000年といえばミレニアムで沸いた年。

            そして今年もまた平成から新元号へ移り変わる年として

            どこか「気分」が重なる気もする。

             

            奇しくも今年の歌会始のお題は「光」であった。

            昨日はその模様が天皇陛下の1首とともに

            ニュースでも盛んに報じられ

            ご覧になった方も多いかと思う。

             

             贈られしひまはりの種は生え揃ひ葉を広げゆく初夏の光に

             

            震災10年の追悼式典で両陛下が神戸を訪問された際に、

            震災で犠牲になった少女の自宅跡地に咲いていた

            ひまわりの種が贈られたという。

            その種は毎年採取され、

            今も御所で大事に育てられていると、歌の背景を知る。

             

            さて「震災」と「光」。そして時代の節目。

            3つのシンクロはただの偶然といえば偶然、

            とも思えず、平成31年1月17日。

             

             

            (「時実新子の月刊川柳大学」49号/2000年1月)


            今日の一句 #367

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              正絹の風呂敷 くずれない姉妹  深川さゑ

               

               

              一読、姉妹のたたずまいが浮かぶ。

              正絹の風呂敷に逸品たずさえて

              どちらへご挨拶だろう。

              ご両人とも着慣れた和服で

              所作美しく、品があり、

              卒なく隙なく、

              ゆえにとっつきにくい。

              さらに言うならば、

              その品がちょいと鼻につく感じ?

               

              なんていじわる目線でチクリと刺すのは川柳の得意技。

              でもひょっとして主人公は

              姉妹のうちどちらかかも、とも思う。

              なにしろ川柳は自分を笑ったり嗤ったりが

              大いに楽しい文芸でもあるから。

               

               

              (「川柳 びわこ」2019年1月号/びわこ番傘川柳会)


              今日の一句 #366

              0

                 

                手は鳥の夢見てお釣り間違える  倉本朝世

                 

                 

                あけましておめでとうございます。

                 

                さて自室には定番のカレンダーが2種かかっていて

                ひとつは書き込み用のカレンダー。

                もうひとつはあざみエージェント製の川柳フォトカレンダーである。

                こちらは月ごとに川柳1句と美しい写真がインテリア感覚で楽しめ、

                今年は倉本朝世さんの12句が雑然の空間を彩ってくれる。

                掲句はその1月の1句だ。

                 

                手が勝手に鳥の夢を見たりするもんだから

                お釣りなんか間違えちゃって、なにやってんだと

                その一瞬は現実に戻りつつ

                隙あらばまた夢を見ている手。

                 

                こないだお釣りを間違えた八百屋さんのアルバイトくんも

                もしや夢見る手の持ち主?

                ああ、あなたも?

                 

                手には、まだ生まれるずっと以前に

                翼だった頃の記憶が残っているのかも。

                なんて、わが両手をひらひらさせてみる。

                ふとはばたけそうな気がするのは

                お正月のお酒のせいかな。

                 

                今年もどうぞよろしくお願いいたします。


                今日の一句 #365

                0

                   

                  一年をかけて一年が終わる  芳賀博子

                   

                   

                  なんてことに

                  ある日はっと気づいて詠んだ句です。

                   

                  どれほどあっという間に思えても、

                  はたまたうんざりするほど長く思えても

                  一年は一年。

                  時間てのは、おそろしいほど揺るぎないなあと。

                   

                  今年もまた、きっかり一年をかけて

                  一年が終わろうとしています。

                  終わるの先に、どんな始まるが待っているのか。

                  そこはシンプルにときめいてみるとして。

                   

                   

                  (句集『髷を切る』 芳賀博子/青磁社 2018年)

                   


                  今日の一句 #364

                  0

                     

                    かさぶたが厚い ずいぶん叱られた  芝岡勘右衛門

                     

                     

                    誰に?

                    チコちゃんに。

                    ではなくてカミナリ親父とか先生とか、上司とか。

                     

                    「かさぶたが厚い」のあとの一字あけが時を感じさせる。

                    ことあるごとに厳しく叱られて

                    当時はマジでヘコんだし反発もしたけど

                    あれで鍛えられたんだよなあ、

                    なんて、ふと懐かしんでいるよう。

                     

                    かさぶたはもうとっくに剥がしたっていいはず。

                    でも今も大事にはがさずに、

                    ときどきふれてはヒリヒリと身をただしているのかも。

                    叱ってくれた人の愛など思いつつ。

                     

                     

                    (現代川柳かもめ舎アンソロジー『WAVE 2009-2018』

                     /メルリンクス)


                    今日の一句 #363

                    0

                       

                      山頂に風あり人を信じます   高田寄生木

                       

                       

                      先月3日、青森の高田寄生木さんが逝去された。

                      享年85歳。

                      進取の気象に富み、

                      広く川柳の振興に務め続けてこられた寄生木さんの訃報は

                      川柳界にさまざまな喪失感をもたらしている。

                       

                      柳誌「触光」の最新号でも巻頭で一報を伝えている。

                      触光を主宰する野沢省悟さんは

                      寄生木さんに薫陶を受け、亡くなられるまで

                      最も身近で川柳活動をともにしていたお一人だ。

                      同誌に11月4日付の東奥日報の訃報記事が転載されていたので

                      一部抜粋する。高田寄生木さんは、

                       

                       1933年生まれ。60年に川柳を始め、

                       戦後の県柳壇のけん引役として活躍した故杉野草兵さんの

                       指導を受けた。

                       65年、川内川柳社の句会報を創刊し、

                       71年に「かもしか」へと改題、編集人を務めた。

                       「かもしか」は詩性をにじませた革新的な句風で

                       県内外から投句者を集める全国誌となり、

                       現代川柳の活性化に大きな足跡を残した。

                       83年、「かもしか」の企画として、

                       杉野さんとともに「川柳界の芥川賞」を標榜した

                       全国公募の「川柳Z賞」を創設。

                       現在の柳壇を支える作家たちを育てた。 

                       2002年の「かもしか」終刊後は

                       「北貌」を編集・発行した。

                       

                      触光ではただいま「第9回 高田寄生木賞」を募集中だ。

                      同賞は川柳に関する論文やエッセイを対象とする。

                       

                      さてそして今日の一句は、

                      寄生木さんの第一句集『父の旗』の巻頭句。

                       

                      残念ながら生前お目にかかることかなわなかったが

                      句集や触光で折にふれ作品を読んできて

                      私の中の「高田寄生木」像は

                      この一句にふわりと重なる。


                      (句集『父の旗』高田寄生木/1975年 かもしか川柳社)


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