今日の一句 #390

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    放たれて男の背中幅を持つ   時実新子

     

     

    男を放つ。

    さあ、もうどこへでも好きなところへ行きなさい、と。

    ためらいながら歩きだした男の背。

    遠ざかりながら確かな幅を持つその背に

    思わず吐息がこぼれる。

    ああ、君は何より自由を愛する人であったと。

     

    掲句は、新刊ほやほやの

    時実新子アンソロジー『愛は愛は愛は』より引く。

    1987年に刊行した句集『有夫恋』が異例のベストセラーとなり

    その鮮烈な十七音で「川柳界の与謝野晶子」とも称された時実新子(1929-2007)。

    作品はジャンルを超えて、今も多くのファンの心を掴み続け、

    今年生誕90年を迎える。

    「この記念すべき年に、新子の魂を受け継ぐ「現代川柳」編集部の手によって編み直された、

     川柳アンソロジー決定版。全集未収録句・未発表句を含む珠玉の352句を収録。」

    (ニュースリリースより)

     

    編年でない新構成で

    代表作も含め、一句一句が新たな輝きをもって胸に迫る。

     

     体内にオリオン誕まれたるを秘す

     花火の群れの幾人が死を考える

     ラムネ玉一つに心まるうつし

     愛そうとしたのよずっとずっとずっと

     命より少うし長く銅鑼は鳴る

     

    (『愛は愛は愛は』「現代川柳」編集部編/左右社 2019年)

     

    さて、ただいま岡山の吉備路文学館では

    特別展「“ことばの力”生誕90年 時実新子展」を開催中。

    http://www.kibiji.or.jp/

    8月3日には「時実新子の言葉たち」と題し

    芳賀も講演させていただきます。

    わが師・時実新子の言葉の深遠へ

    みなさまとともにぐぐっと迫るひととき。

    ぜひお運びください(要予約)。 


    今日の一句 #389

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      差向ひ又金の要る話なり   岸本水府

       

       

       「これもしようがないですね、ほんとに。

       <金の要る話をするために夫婦はあるようなもんやから。> 

       一人やったら、使うことあらへんやないか、まあ、

       子供もいれば余計だけども。

        この句は、浮世のそういうふうな空気というものが

       ちゃんと出ていて……。美しい川柳とか、感動的な川柳とか

       あるけれども、庶民の何でもない普通の生活、

       こういうのを詠むのも川柳の仕事だと思いますよ。

       人生の妙味、というのでしょうか」

       

      と、田辺聖子さんの鑑賞もまたユーモアふっくら、滋味たっぷり。

      出典は『田辺聖子の人生あまから川柳』(集英社新書 2008年)で

      自身の選による「川柳珠玉の百句」が一挙掲載されている。

       

      さてもこのたびの田辺聖子さんの訃報。

      まさに巨星墜つ。

       

      言わずもがなながら

      詩歌のスーパーサポーターでもあり

      ついに、とうとう‥‥の喪失感で、

      手もとの本書を久しぶりにぱらりと開いたら

      これがほんとに面白くてページがとまらなくなってしまった。

      他にもこんな句が紹介されている。

       

       このご恩は忘れませんと寄りつかず  大田佳凡 

       あらかたは社長が笑ふ社長室     川上三太郎

       いじめ甲斐ある人を待つ胡瓜もみ   田頭良子

       鮎にあき郊外にあき雨にあき     食満南北

       叱られて寝る子が閉めてゆく襖    木下愛日

       

      帯には、笑顔の写真とともに

      「佳きかな、川柳。

       覚えておいて人生の中で

       ハンカチみたいになんぼでも使ってほしい」


      今日の一句 #388

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        ピッピッと時々ピーとセロテープ  笠川嘉一

         

         

        封をしようとピッ。

        ぷすっと穴があいたらピッ。

        びりびりに破けたところにはピーと長く引っ張って

        くきんと折れたところにはピーぐるぐると巻きつけて。

         

        たいがいの封印も修復もセロテープで間に合う。

        というか間に合わせてきたんだろう。

        こんなんじゃきっとアカンだろうなあ、

        というときも

        ピッピッと、ピーと。

         

        いわゆる、ただごとが

        ひょうひょうと詠まれている。

        なのに勝手に人生なんか重なってしまって

        じわじわじーんと沁みてくるのだ。

         

         

        (「川柳びわこ」2019年6月)


        今日の一句 #387

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          いつだって前を向いてる靴と臍  三好光明

           

           

          タハハ。

          最後の臍がなんとも可笑しい。

           

          「人生100年時代、

           さあ、毎日ポジティブにまいりましょう」

          なんて健康食品のCMやらに感化されて

          とりあえずは前向き、

          ・・なんだけどなあ、のペーソスを

          「臍」が醸し出している。

           

          靴に足入れて前を向けば

          おのずと臍も前になる。

          いいじゃないですか。

          まずはかたちから入ったって。

           

           

          (「川柳フェニックス」No.12 

           /フェニックス川柳会 2019年4月)


          今日の一句 #386

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            傘立てに抛りこまれた敗けいくさ  稲垣冬民

             

             

            通巻845号となる「柳都」最新号にて

            新企画「柳都の平成川柳作品」がスタートした。

             

             平成の川柳を改めて見直してみたいと思い

             「柳都」の年間推薦作品から

             「平成の川柳」として抜き出してみた。

             これも川柳を知るに大切な資料としたい。

             

            と、大野風柳主宰の言葉。

            初回は見開き2頁に85句がピックアップされていて

            掲句はその中のひとつだ。

             

            傘立てにばさっ。

            ろくにたたみもせず乱暴に投げ入れられた傘が

            悔しさを物語る。

            もうこてんぱんだったんだな。

            でも、その悔しさは

            めいっぱいがんばった証でもあるだろう。

             

             父が臥す日本の地図のかたちして   寺嶋瑠美子

             グリーン車は無口でいようなァ妻よ  山田洛水

             万歩計つけてもやはり石を蹴る    小出青童

             中八の中に芸能人が居た       長谷川朱嶺

             

            さまざまな佳句をもって

            平成を振り返り、俯瞰していくシリーズ。

            ここからどんな平成が見えてくるだろう。

             

             

            (「柳都」通巻845号 2019年5月)


            今日の一句 #385

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              樹齢千年もう美しくなるばかり   小島蘭幸

               

               

              樹齢千年のたたずまい。

              その美しさを深く大らかに、ダイナミックに詠みきって

              永遠にした1句。

              見上げるように読みながら、

              思わず胸いっぱいに深呼吸する。

               

              出典は今春発行された小島蘭幸の第3句集。

              掲句はタイトルにもなっている。

              句集『再会供抂聞漾△海裡鞠の作品から自選された

              240句を収載。

              「古希青年」のしなやかな境地とともに

              氏ならではのほのぼのとしたユーモアを

              ゆったりと味わう。

               

               電気代も水道代も春になる

               飛び込んできた一輪車の両手

               バトンいただくと私の道になる

               ただ好きなだけでここまで来たみどり

               

               

              (川柳作家ベストコレクション 

               『小島蘭幸 樹齢千年もう美しくなるばかり』

               /新葉館出版 2019年)


              今日の一句 #384

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                「OKグーグル」淋しくて淋しくて  小林信二郎

                 

                 

                「OK Google  今日の天気は?」

                「OK Google  イチゴのカロリーは?」

                「OK Google  月までの距離は?」

                「OK Google  電気を暗くして」

                「OK Google  アラームを毎朝7時に設定して」

                 

                なんてスピーカーやスマホに話しかけるだけで

                たちどころに答えてくれたり、応えてくれたりする

                Googleの音声アシスタント。

                はて「淋しくて淋しくて」には

                どんな反応がかえってくる‥‥?

                 

                本作は「卑弥呼の里誌上川柳大会」の

                兼題「呼ぶ」の入選句。

                キュンとせつなくもコミカルなタッチで

                想像が勝手にドラマ化されていく。

                 

                 

                (第七回 卑弥呼の里誌上川柳大会

                 /卑弥呼の里川柳会 2019年4月)


                今日の一句 #383

                0

                   

                  ミサイルのボタンを押すとしゃぼん玉  吉田利秋

                   

                   

                  だから戦場はもうしゃぼん玉だらけだ。

                  まっさきに子どもが笑う。みんなが笑う。

                  きょとんとしてるのはボタンを押した張本人だけで、

                  い、いったい、誰の仕業でこんなことに‥‥

                  と歯噛みしたところで、時すでに遅し。

                  利秋さん、してやったり!

                  ‥‥なんてチャップリン映画のような

                  痛烈でユーモラスで愛にあふれた1句とともに

                  平和への新しい1歩を踏み出したい。

                   

                  出典は、まさに令和元年5月1日発行の

                  「子の会」合同句集第二集。

                  神戸を拠点とする川柳グループ「子の会(ねのかい)」の

                  メンバー26名による本書には

                  それぞれの人生やさりげない日常を

                  丁寧に詠まれた秀句が並ぶ。

                   

                   跳んでみませんか橋の下には合歓の花  大西玉江

                   まだ一つ大きな祭り残してる     岸本きよの

                   白い時間経て一握の砂となる      中野文擴

                   ライ麦パン六円上がってる時給    平野ふさ子

                   火の鳥は夕焼けになり明日晴れ    まきのあん

                   

                   

                  (「子の会」合同句集 第二集

                  /元川柳大学神戸ゼミ「子の会」 2019年5月)


                  今日の一句 #382

                  0

                     

                    無事送り届けるまでは船でいる  浅井ゆず

                     

                     

                    どんな荒波も乗り越えてゆく母の船を思う。

                    しかるべき地へしかと子を送り届けるまでの歳月。

                    そして岸はもうすぐのよう。

                    さて、その後は。

                     

                    と、潮風の匂いの余韻広がる本作は

                    できたての『川柳 宙 アンソロジー』からの1句。

                    私も参加するグループ「川柳 宙(そら)」の

                    3年半ぶりのアンソロジーです。

                    冒頭の浅井ゆずさんはじめ

                    メンバー12名の自選20句とショートエッセーを収載しています。

                     

                     逆さ地図わからないでもない話     小原由佳

                     細雪きつねうどんがまだ来ない    川田由紀子

                     宇宙からこぼれた星も潜む森     久保田清美

                     どこの児にあげたかミッフィーの絵本  辻 光子

                     失せもののように五月の隅に居る    中西南子

                     最後にはお姫さま抱っこで入る箱    能登和子

                     ぐだぐだのオムレツ締切は明日     芳賀博子

                     運転士吹春さんの山のバス      弘津秋の子

                     家紋から鰻一匹すり抜ける      古田ゆう子

                     不用意に摑むと茄子だって怒る     森 廣子

                     おうおうと沖に向かって立つ佛     夕 凪子

                     

                    「川柳 宙」は月いちの例会を基本に活動中。

                    例会は毎月第2金曜、大阪で開催しています。

                    アンソロジーや会についてのお問い合わせは

                    こちらまでどうぞ。

                    senryu_sora@yahoo.co.jp

                     

                    (「川柳 宙 アンソロジー」

                        /あざみエージェント 2019年4月)


                    今日の一句 #381

                    0

                       

                      お互いに大人になって滝の中  久留島 元

                       

                       

                      先週4月13日、京都は伏見稲荷にて

                      「落語で五七五」なるイベントを開催しました。

                       

                      洋館町家・松井邸(国の有形文化財)にて

                      落語を1席ナマで聞いたあと、

                      それをネタにみんなで川柳を詠もうという初の試みです。

                      はたして川柳人をはじめ

                      俳人、詩人、そして短詩はまったくはじめての方々も

                      参戦してのにぎやかな集いになりました。

                       

                      演者は上方落語界のホープで詩人としても注目される

                      笑福亭智丸さん。

                      その智丸さんが選んでくださった演目は「西行鼓ヶ滝」です。

                      かの西行法師が旅先で歌を推敲されてゆく

                      興味深い噺は、もうマクラから爆笑につぐ爆笑、

                      そして一同の詩心を大いに刺激し、

                      おもしろい句がたくさん生まれたのでありました。

                       

                      掲句はそのひとつです。

                      恋愛の果てを思わせる下五が

                      滝の上でも下でもなく

                      「滝の中」であるところが、はっとスリリング。

                      想像が胸の中に余韻を広げていきます。

                       

                      ほかにもまだまだこんな佳句が。

                       

                       認知症九官鳥とむつまじく      純子

                       人類は麺類と言って聞かぬ滝     智丸

                       手拭いでせっせと拭いているお空  由紀子

                       花の下天狗の鼻が落ちている     和子

                       今はまだうたた寝してる正義感    清美

                       

                      落語と川柳の相性の良さを新発見した一日。

                      すっかり気をよくした主催の我々、

                      第2回へ向けてはやくも意気込んでおります。


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