今日の一句 #161

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    消しゴムを拾ってからの永い縁   金子喜代


    足元にころころ転がってきた消しゴム。
    拾ってみれば斜め左に座るAちゃんのだった。
    「はい」
    「あ、ありがとう」

    教室で初めてかわすことば。
    そこからふたりは友だちになり、そして・・・

    さてAちゃんは女の子か男の子か。
    それによって思い描く展開も変わってくるのだけれど、
    まあ「永い縁」になったわけだ。
    こういうこと、あるよなあと
    ほのぼのあたたかく読むか、ふっとほろ苦く読むか。

     桃咲くや後ろの正面いつも母
     幻のあの子がせがむ汽車ぽっぽ
     林檎剥くナイフに目玉映しつつ
     生還のごくんと喉を通る水

    2012年度「かもめ舎」の「鴎盟大賞」に続き
    2013年、第1回「現代川柳」作家賞を受賞した金子喜代の第一句集。
    一句一句がタイトルのごとく『一人芝居』の濃密な世界を構築する。


    (『一人芝居』金子喜代/かもめ舎川柳新書 左右社  2015年)
     

    今日の一句 #160

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      黙すとき舌は正しい位置にある   草地豊子


      もしやまたなにか舌禍を起こしたのか。
      しかしそれを反省しての一句、というのでもなさそう。

      つまり「沈黙は金なり」、
      といったことわざや教訓を導かないところが
      この句の魅力。

      「正しい」位置にあるとき、
      舌はオフの状態であるという皮肉が笑いを誘う。
      口を開けば、つい本音を吐いてしまう舌。
      自分でも持て余し気味ながら、
      その舌のなんとまあいきいきと。


       (『三省堂新現代川柳必携』田口麦彦編/三省堂  2014年)

       

      今日の一句 #159

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        新しい涙を溜める新聞紙   佐藤 雪


        明後日17日、阪神淡路大震災から20年を迎える。
        今、手元に開いているのは「時実新子の月刊川柳大学」創刊号。
        震災から1年を経た1996年2月、
        神戸在住の川柳作家・時実新子を発行人、
        夫で編集者の曽我六郎を編集人としてスタートした川柳誌だ。
        記念すべき創刊号には先行で公募していた
        「阪神淡路大震災復興祈念テーマ川柳 がんばろう神戸」の入選作も掲載され、
        掲句は十秀のうちの一句である。

        作者は東京在住。
        その後の被災地に思いを馳せ、新聞の続報を丹念に読む作者が伺える。
        主語を「新聞紙」とすることで、作品に過度な感傷があふれるのを抑えつつ
        「新しい涙」に被災した人々の、また作者自身の、新たな感懐を思う。
        それぞれが溜める涙の中に、
        あのときがあり、今があり、これからがある。
        そして20年。

          混沌の街 人間が試される        博子

        十秀に続く百選に選んでいただいた拙句で、
        ここから私の川柳が始まった。


        (「時実新子の月刊川柳大学」創刊号/川柳大学  1996年2月)
         

        今日の一句 #158

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          一日を冬の金魚と恋人と   大西俊和


          恋の句。
          スタンダードポップスみたいな。
          山下達郎のメロディにのせたいような。

          口ずさめば映像が動きだし、
          そのままなにかのCMになりそう。

          「冬の金魚」、効いてますねえ。
          外の寒さ、部屋のあたたかさ、恋人といるやすらぎなど
          この一語が物語り、
          さらに恋人をすこぶる魅力的に見せている。

          出典は精神科医でもある大西俊和の句集『恋の蟻』で、
          オール恋の句で編まれた新刊。

           NHKニュースのように告白す
           君想う青い真珠を抱くように
           恋をした書斎机が動き出す
           全力疾走 思い出せないところまで


          (『恋の蟻』大西俊和/かもめ舎川柳新書 左右社  2015年)
           

          今日の一句 #157

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            まあ坐れ地球の話つづけよう   西秋忠兵衛


            あけましておめでとうございます。
            神戸、空気はきーんと冷たくも晴れています。
            みなさんどんな元日をお過ごしでしょうか。

            さて今日の一句、
            お屠蘇を調子よくいただいて、まさに今こんな気分。

            まあ坐れ。まあ飲め。話そう。

            といってもこの句、
            お相手は地球の話なんぞに興味はなさそう。
            それでもいやまあ坐れ、と腰据えて話し続けようとする、
            ちょっと難儀で愛すべき市井の哲学者の
            風貌まで生き生きと浮かんでくるような作品を皮切りに
            今年も魅力ある川柳をマイペースでお届けします。
            今年もどうぞよろしくお願いします。


            (『三省堂新現代川柳必携』田口麦彦編/三省堂  2014年)
             

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