今日の一句 #439

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    お返事がないのも返事花鋏   若林よしえ

     

     

    チョキン。

    と、未練を断った花鋏の切れ味も

    句の切れ味も鋭い。

    にもかかわらず、後を引くのはなぜだろう。

     

    若林よしえさんの句集『明日』は

    もう何度も読み返しているのに

    いまだ、あっ、うっ、ひっ、と

    驚かされっぱなしなのが悔しい、うれしい。

     

     滝壺で静かに暮らす病み上がり

     ポットの湯あんたも冷めておしまいよ

     振袖のように残っていた水着

     トンカツの衣ですがと自己主張 

     人だけが死ぬの生きるの洗濯機

     

     

    (句集『明日』 若林よしえ

     /かもめ舎川柳新書 左右社 2015年)

     


    今日の一句 #438

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      道問へば一度に動く田植え笠  (古川柳)

       

       

      『誹風柳多留』初篇(明和2年/1765年)の中の1句。

      DNAに刷り込まれた原風景というか、

      実際にこんな光景を目にしたことはないのに

      なんとも懐かしく生き生きとよみがえってくる。

       

      ところで手元の『古川柳 ー鑑賞から研究へー』

      (丸十府 著/愛育出版 1968年)は

      古川柳研究の某氏が初学の頃より愛読されていた古川柳の手引書。

      ふとしたご縁でひょいと譲ってくださって以来、

      わたしも折にふれ楽しくめくっていて

      本書には掲句と一緒に、柳多留のこんな2句も紹介されている。

      どちらもなかなか味があって

      著者の丸十府氏の鑑賞とともにどうぞ。

       

       早乙女の笠ひぼ岡へ持つてくる (六篇)

        田植え最中、笠のひもがゆるんできた。

        泥の手で、しめ直すこともできない。

        あぜにいる人に、「しめ直して……」

        とやってくる。

       

       早乙女は他領の方へ草を投げ (三篇)

        田植えの邪魔になった雑草を、

        ぽんとよその田へ投げてやる。

        「他領」の大げさな表現。

       


      今日の一句 #437

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        神様の遊び 苺のツブツブは   石井陶子

         

         

        この句を思い浮かべながら、

        今日苺を食べた。

         

        神様の遊び=苺のツブツブ。

        この思いがけなさに詩がある。

         

        ツブツブをつぷつぷと噛みしめて

        これも遊びなのかあ、

        遊びとはなあ、

        と、愉快なようなせつないような。

         


        (川柳アンソロジー『月の子』 月の子会 2013年)


        今日の一句 #436

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          シンバルを持って岬にひとりゆく  木口雅裕

           

           

          今、私もとってもこんな気分だ。

          岬の先端で、水平線を見つめながら

          シンバルを力任せに打てたら、どれほどスカッとするだろう。

          その後、いっそう寂しくなったとしても。

           

          本作は『若葉の句集 此戮茲螳く。

          こちらは京都を拠点とする川柳グループ「川柳若葉の会」の

          15周年を記念した、会6冊目のアンソロジー。

          表紙のイラストがとってもキュートで

          1本の大きな樹には葉が茂り、小鳥たちが楽しげに歌っている。

          いいなあ、と表紙をめくり、

          いいなあ、いいなあ、とページをめくる。

          「すっかり川柳マジックに魅せられた」若葉メンバー21名の

          川柳愛に満ちた1冊。

           

           ハンサムなライン欲しくて夜のジム   越智ひろ子

           瓢箪ぶらぶら小さなことは教わらず   坂根寛哉

           液晶の海へ沈んでゆく魚影       西田雅子

           笑いに笑って往生いたします      野村笑吾

           ポケットの奥に溜まってゆく端数    目加田邦子

           火を囲む両手に少し滾るもの      和田洋子

           

           

          (アンソロジー『若葉の句集 此15周年記念』

              /川柳若葉の会 2020年) 


          今日の一句 #435

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            ふかふかの土は恐いぞ三輪車   大西玉江

             

             

            この三輪車の主はなかなかのヤンチャとみた。

            ちょっと目をはなすと

            でこぼこへも、ずくずくへも平気で漕いでいく。

            おやおや今度はふかふかへ。

            と、すかさず作者の

            「ふかふかの土は恐いぞ」

             

            そんな単純な声掛けが

            五七五のリズムにはまると

            なにやら箴言めいて可笑しい。

             

            もちろんこの子はおかまいなしに

            ふかふかへ突入していくだろう。

            でも大丈夫。

            困ったらちゃんと駆けつけてくれる大人がいる。

             

            「恐いぞ」の句なのに、

            やさしい気持ちになれる句。

             

             

            (アンソロジー『川柳の森 -現代の秀句』

                /川柳大学 2000年) 

             


            今日の一句 #434

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              沖縄にあるしりとりの「ん」の続き   森山文切

               

               

              「ん」の続き。

              ああ、確かに!

              と、思い出すのは

              旅で幾度か訪れた、わが国最南端の

              ここで終わり、どころか

              ここから何かが始まるような美しい海。

               

              一方で、社会派の句としても読む。

              政府が「ん」を突きつけ、強制終了しようとしても

              なんら解決していない問題が山積。

               

              なんて、「ん」にたたずみつつ

              実はこの句に最初に出合ったのは、作者のツイッター。

              ネタバレ恐縮ながら、昨年のGWに、

              あるスナップとセットで投稿されていて

              だからもともとは、くすっと笑えるユーモラスなもの。

              でも一読、句は写真からすっくと屹立した。

               

              そんな印象深いお気に入りの句が、

              新刊の森山文切川柳句集『せつえい』に収載されている。

              それも巻頭、というのが勝手にうれしい。

               

               目を覆うための両手に成り下がる

               美濃和紙のブラキオサウルスの産毛

               ひとりでもやれとはまなす咲いている

               ビックリマンシール剥がして父になる

               

              作者は鳥取出身、沖縄在住。

              森山文基として毎週web句会の代表を務める。

              序文・真島久美子、あとがき・樋口由紀子、跋文・森山盛桜。

               


              (森山文節川柳句集『せつえい』2020年)


              今日の一句 #433

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                英検の五級アメリカ行こうかな  真島 芽

                 

                 

                作者は13歳。

                まさに「今・ここ・私」の作品から

                はるばると青い空がのぞく。

                アメリカへ、未来へとつながっていく空だ。

                 

                一方、15歳の姉は

                 

                 砂時計コドモコドモと落ちていく   真島 凉

                 

                いずれも出典は、月波与生さんと真島久美子さんの

                コラボレーション川柳誌「川柳の話」第1号。

                この4月に創刊されたばかりの川柳誌で

                今後も年1回程度の発行を予定されているとのこと。

                作品、インタビュー、エッセーと中身濃く、

                今後は批評文等、投稿も募って

                「作句と並行して川柳批評を活性化する試みです」

                と、月波与生さんの巻頭言。

                 

                 瓦礫という長い台詞を記憶する   月波与生

                 みんなやさしいゴールまで来たらしい

                 

                 冠をください首が軽すぎる     真島久美子

                 自覚しておこう螺旋であることを  

                 

                ところで、真島凉さん、芽さんは

                真島久美子さんの姪御さん。

                今回はゲスト参加ながら、

                久美子さんの編集後記によれば

                「二人には毎年参加してもらい、

                 この本を見ることで句だけでなく、

                 人としての成長も見ていただけるのではないかと

                 思っています」

                 

                新しいアプローチ、楽しみ方いろいろの

                ユニークな川柳誌、発進。

                 

                 

                (「川柳の話」第1号 2020年4月)


                今日の一句 #432

                0

                   

                  本当のコロナ太陽からあふれ  佐藤岳俊 

                   

                   

                  そうだ。

                  そうだった。

                  本来コロナといえば太陽大気の最外層。

                  真珠色に輝く光だ。

                  今日もお日様は高くのぼっている。

                  泰然といつもと変わらずに。

                   

                  岳俊さんより届いた最新作。

                  縄文的ダイナミックな一句に

                  わ、と力をもらう。

                  太陽の力、川柳の力。

                   


                  今日の一句 #431

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                    花便り何の予定もない四月  林 操 

                     

                     

                    「川柳びわこ」最新号に掲載されている

                    課題吟「四月」の入選句より引く。

                    まさに今年の4月だなあと読む。

                     

                    花便りが届くいい季節。

                    なのに何のお出かけ予定もない。

                    カレンダーにも書き込みひとつなくて

                    まあしかし世の中この事態では致し方ないか、

                    と主人公と一緒に吐息つきつつ、

                    けれどこんな非常時が続いてみて

                    身近な花のやさしさがしみる。

                    駅前の桜やチューリップに

                    ベランダのパンジーに

                    心なぐさめられながら

                    とにもかくにも4月が始まった。

                     

                     嘘つけず始まる四月おおくま座    宮井いずみ

                     マスク外し四月の空気思いっきり   川村美栄子

                     四月ですとにかく種を蒔きましょう  今井和子

                     

                     

                    (「川柳びわこ」第682号/2020年4月  びわこ番傘川柳会)


                    今日の一句 #430

                    0

                       

                      「まいった」と言えば出てくる探し物  上藤多織

                       

                       

                      わざわざカッコ付きの「まいった」。

                      もうほんとに声が出ちゃったんだろう。

                      すると、たちまち勝ち誇ったようにあらわれる探しもの。

                      いやまったく、あるある、の1句だけれど

                      探しものといえば

                      先人もこんな名句をものしている。

                       

                       無い筈はないひきだしを持つて来い  西田當百

                       

                      「番傘」の創刊同人、西田當百(1871−1944)の代表作のひとつ。

                      初心の頃に読んだ瞬間、思わず笑って膝打ったっけ。

                      以来、失せものがでるたび

                      この句がよぎり、ひきだしをごそっと引っこ抜いたりしている。

                       


                      (「現代川柳」第72号/現代川柳研究会 2020年3月)


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